ベロニカ学習帳。

文京なんちゃらのなれの果て

レモン・ドロップス/石井睦美

中3女子、横暴な(というと語弊があるが)姉、恋に夢中な友人。そういった機微をイマイチ理解できない主人公。それに、すてきなおばあちゃん(終盤で認知症を発症)。
前回読んだ「ひな菊とペパーミント」と同じような年頃の、一見すると同じような話だと思う。ことに、たぶん私の記憶に間違いがなければ、どちらの作品も主人公が掃除するときにラルクを爆音でかけてたという共通項がw 10年くらい前の女子中学生ってみんなそうなん? まあ、ひな菊のときは小道具的にちらっと出ただけで読み流しちゃったから、もし記憶違いだったらすまん。でもこの作品の主人公に関しては、ハイドさんに対する熱い想いも語ってるので間違いない。
そしてはからずもなんだけど、このラルクの件にしてもそうで、ぱっと見よく似ているのだが、この作品のほうが色濃く記憶に残るというのは、作品としての質の違いなのかねー、などと感じた。
というと、前の作品がレベル低いみたいになってしまうけど、決してそうではないんだ。質の良し悪しということではなく、気質の違いという意味なのだ。
そもそも、この作品を読もうと手に取った背景は、読んだことのない作家さんだったんだけど(ここ最近不勉強ですみません)プロフィールを見て、児童文学出身の人だからと気に入ったのだ。児童文学や童話を書いている人の、大人向けの小説というのを、私はけっこう信頼している。平易で読みやすい文章だったり、人物の捉え方がとても鋭かったり。して実際この作品を読んでみて、やはりこの作家さんもそうだったなと思うのだ。
前回読んだ作品との比較になってばかりだけど、前回のは若い人向けの作品なのだろうと思う。多感だからこそ読み取れるいくつもの感情がある(はず)。そして今回のは、子供が主人公だし(なんならこの作品の主人公は設定年齢の年頃の中では幼いほうだろうと思われる)完全に子供の世界の話なのに、大人向けに書かれている。まあ別に若い人が読んだってきっとおもしろいんだろうけど、たぶんいろんな経験だけは積んできた私の年齢だからこそわかることが、この作品にはちゃんとある。なんというか、色と奥行きを感じる、そんな作品。10時台のファミリードラマって感じ。
最後には、少しだけ成長した主人公の姿に、おばあちゃんや姉はもちろん、大して描かれてない父親や母親を含めた家族たちとのしっかりした繋がりを感じられて、そのあったかさに少し泣きそうになる。そんな素敵な作品だった。読めてよかった。
レモン・ドロップス