ベロニカ学習帳。

文京なんちゃらのなれの果て

言い寄る/田辺聖子

既読だけど、友人が貸してくれるというので遠慮なく借りた。すごく好きな作品で、読むのは少なくとも3回目だ。そして復刻版の装丁、かわいーじゃないのコレ。
さて。この作品を1回目に読んだとき、私は10代で、まだ経験も勉強も足りなかった。だので、この作品をちょっと進んだ女子の色恋、中でも特に駆け引きに注目した物語、というくらいに捉えていた。2回目に読んだときは20代前半くらいで、このときは女として生きるということが書かれた名作だと感じ、うおお田辺聖子すごい、となってこの作品から続く三部作を一気読みした挙句、完全に田辺聖子ファンと化した(現在継続中)。
そして今回。結婚して、そして30代になって読む「言い寄る」は、私にとってまた違う物語になった。
好きで好きでどうしようもないけど振り向いてくれない人と、それを横からさっとかっさらってしまった親友。普段は顔も思い出せないけれど、会えば自然と身体が欲情する妻子持ちとの逢引。どちらももの悲しい、何か後味がよくない人間関係がある。そしてその狭間に、恋焦がれたりはしないけれど気が合って、強引に口説かれて寝てみれば身体の相性も良い男がいる。その男が、見た目もよく金持ちとくれば(主人公は別に金に目がくらんだわけではないのだが、でも仕事について漠然とした不安はある)、そりゃあ最終的にはここに着地してしまう、だろう。
今の私にわかるのは、美々とゴロちゃんのことがなければ、水野との関係がなければ、おそらく乃里子は剛を選ばなかっただろうということだ。たぶんいつまでも、時々会って楽しむセフレぐらいの関係でい続けただろう。だってその方が楽しいもの。だけど、ふっとした心の隙間に強引に入り込んで来られると、人間ってもんは弱く、簡単に心を明け渡してしまうのだなあ。まあ、本当はそういうのもひっくるめてなるようになった、つまり、これが乃里子と剛の運命だったと言えるのかもしれないけれど。
続編で結婚→離婚→再会という展開に進むことを知っているから言えることなのだが、今の私にとってこの作品は、結婚という妥協というか諦めというか、そんなものを選ばざるをえない女の寂しさを切に綴った物語だった。続編、正直今すぐにでも読みたいけど(特に33歳の乃里子の物語は、33歳の今こそという気はする)、今は自分のリアル人生にすごい影響を与え過ぎそうで怖いなー。