ベロニカ学習帳。

文京なんちゃらのなれの果て

海の仙人 (新潮文庫)/絲山秋子

先日、文章力向上の人たちと飲んだときに「あなたに合っていると思う」的な感じでお薦めされた、というかプレゼントされた作品。嬉々として読んでみた。絲山さんの作品は、今までに読んだ記憶はあったけど、調べてみるとあっちでもこっちでもレビュしてないみたいだから、たぶん文芸雑誌で短編かなんか読んだだけかもしれない。
読んで一番に思ったこと。この作品のなにがスゴイって、短さよ。遅読の私が3時間くらいで読めたくらいの分量なのだが、その中に、隠遁生活・ファンタジー・運命の出会い・キャラの強い異性・トラウマ・ロードムービー的な流れ・性の悩み〜癌・恋人の死・失明・孤独・そして再会・それらを飾る音楽の数々、などがこれでもかっと盛り込まれているのだが、ちっとも混乱しないというのがスゴイ(まあ「それ端折りすぎだろ」と思う部分は、いくつもあったけど、そこは作者的に書かなくても別に良かった部分なのだろう)。
よくよく考えてみれば重い話なのだけれど、ファンタジーというおっさんを介在させることによって、さらっとした手触りに仕上がっている。人によっては、あるいは私だってがっつりとドスンとこころに来るものを読みたいと思うような精神状態のときは、この作品を物足りないと感じるかもしれないなあと思う。でも、少なくとも今の私には、このくらいがちょうど良かった。押しつけがましくないタッチでこんな内容を書けてしまうというのは、とてもいいなー。すごく映像的、しかも全体的に動きのない静かな邦画にぴったりの雰囲気だった。アパートの一室に敷き詰められた砂とか、画的にも面白そうだし。誰か映画化しなよ。
なんにせよ、こういう作品を「合っているんじゃないか」とお薦めされることは、なんだかくすぐったいな。ありがとうございました。絲山さんの作品は、もうちょっと読んでみようと思います。
しかしまあ、人に本をあげるって、すごく難しくて私はなかなかできないんだなあ。その人が好きそう・合ってそうだと思う作品なら、もう読んでるかもしれないと思ったりして二の足を踏んでしまうし。やっぱ、たくさん読んで、いろんな引き出しを持ってる人じゃないと、できないことだなあ。そうしてまた、精進の日々は続くのですよ。