ベロニカ学習帳。

文京なんちゃらのなれの果て

ここ半年ほどの読書録。妊娠して以来、なにせ眠くてだるくてやる気なし、日々の生活を保つのが精一杯だし、妊娠出産に関する本はいくつか読んだけど、小説を読む余裕はほとんどなかった。で、今数えてみたら、文芸誌や再読モノを除くとたったの三冊であった。少ない。仕事やめたらもう少し読めるかしら……。
神名火[文庫] (小学館文庫)佐藤洋二郎
一房の葡萄 (角川文庫クラシックス)有島武郎
戦場のガールズライフ (小学館文庫)吉川トリコ
とりあえず。それぞれの作品について、読みながら、感想として書こうと思ったことはいっぱいあった。素晴らしいと思った点、ここはどうかと思った点、どちらもいろいろあった。でも、今はそれについて語る気分じゃない。なにしろ妊娠して以来、私の感受性はどうもバカになり、何を読んでも(読み物に限らず、映像や音楽でも)本当にびっくりするほどすぐに泣けてしまうので、作品についてよりも、今はそのことを記しておかなければいけないと思う。
私がぽろぽろ泣いていると夫などはひどく心配するのだが、これは別にマタニティブルーではないし、悲しいとかつらいというネガティブな感情からくるものではない、と思う。まず前提として、どんな創作物も結局のところ表現されているのは誰かの人生の一端であって、だから私にとって小説を読むということは、他人の人生を垣間見ることだ(フィクションだけど)。だから私が小説を読んだときに抱く感想ってのは、究極の言い方をすれば、自分にとって「こういう人生もあるな」とか「こういう人生はないな」とか、そういう程度のものだった。
ところが妊娠して以来、何を読んでも(観ても聴いても)、自分の子の人生にまで想像が及ぶようになってしまった。この子の人生はこんな感じだろうか。この子にこんな事件が降りかかってきたらどうしようか。この子がこんな風に幸せになってくれたらいい。そんなふうに。
今は私の腹に寄生していないと生きられないほどの小さな命が、そのうちえいやっとこちらの世界にやってきて、自分で人生を作っていくなんて、もうこれ以上のドラマはないんじゃないだろうか。それを見守り、ときには助けたり、軌道修正を促したりして、ちょっとだけ物語を作るのに力を添えることができるなんて、こんなにエキサイティングな創作活動もない。そして、すべての人間がお母さんのお腹から生まれて、そうやって人生を創ってきているのだなあと思うと、そのスケールのでかさに涙が出る。さ・ら・に! そんなことに思いを馳せて涙ぐんだりしていると、偶然なのかわかっているのか、まるで私を励ますような力強さでもって、小さな人が一生懸命私の腹の内側を蹴ってきたりするのだ。もう号泣するしかないじゃん。
これほどまでに大切で楽しくて愛おしいものを授かれたことを、今は本当にありがたく思う。そしてこのバカになった感受性が、創作活動にも何か役立つといいのだけれど、それは今のところ微妙です。母ちゃんがんばるよ。