ベロニカ学習帳。

文京なんちゃらのなれの果て

ほかに誰がいる (幻冬舎文庫)/朝倉かすみ

うおおおおおお! 唸るわ(唸りか?)。
朝倉かすみさんを読むのは二作目で。デビュー作の「肝、焼ける」を読んだときは、ああ巧いなって。洗練てか熟練てか、それっていわゆる作り込み感、要は技巧メインみたいな印象。感心はしたけど感動はしなかった、て気がするのです。けど。この作品は、その印象をすっこーんと蹴り上げて、そ知らぬ顔すらしている感じ。読みながら、「え、あの肝焼ける人の作品なんだよね?」と、何度もプロフィールを確認してしまったほどだ。今にして思えば、「肝」は賞を取りに行くための及第点を狙った作品としか思えぬ。そして、賞をとるために通常は100パー以上の力を出そうとするもんだと思うのだが、この人の場合は力をセーブしなければならんかったのでは。とまで考える。その力量たるや、どんだけーっていう。
以上、作家さんに対する感想でした(はてなダイアラーさん*1なので、必要以上に力を入れてみた)。そういう印象から、ぜひ他の作品も機会があったら読みたいと思っていたところ、文庫で新刊がでていたので読んでみました。これ以降が、作品の感想。
恋の、物語でした。悲恋だけど、悲しくないです。壮絶だけど、怖くないです。曲がってるけど、間違ってないです。アブノーマルだけど、とてもスタンダードです。たぶんこの作品を読んで、悲しいとか怖いとか間違ってるとか変態とかって感じる人は、いると思う、絶対にいると思うけど。恋なんて、そもそも勘違いから始まるもんだし。思い込みで盛り上がるもんだし。そんで、自分を騙す瞬間にこそ恋の醍醐味があるんじゃーん、て私は思う。
私はそのテンションでいつまでも自分を騙し続けることができないけれど、この物語の主人公・エリは、最後の最後まで自分を騙し続ける。恋というおかしな魔法にかかったまま、想いを貫くことができる。冒頭では、単に初恋ゆえの純粋さを描く物語なのか、と思ったのですが、まさかそれがアレで、ああなってこうなって、そこまで壮絶になって、その勘違いの結末が軽くファンタジーだなんて想像もしてなかったんですけれど、その勢いに引っ張られて、ずずずいっと一気に最後まで読んでしまった。エリは純粋すぎるほど純粋で、だからこういう想いの遂げかたは、アリだなって思う。ただもう、純粋さゆえに。
私は、自分がとても不純なので、純粋な人が大好きで、心を打たれてしまうのです。も、完璧ノックアウトされた。