ベロニカ学習帳。

文京なんちゃらのなれの果て

愛の風見鶏/田辺聖子

やはり田辺聖子さんはすばらしい。
どれほどすばらしいかって、まだ最後の一篇を読んでいなかったのに、酔った勢いで友人に「ぜひ読んで」とこの本を無理やり貸してしまったほどすばらしい。ああすばらしい。
自身があとがきに書かれているとおり、これは恋愛のさまざまな形を集めた短編集だ。恋愛小説なんていうと、そこはかとなくスイーツなかほりがするけれど、お聖さんのラブストーリーは全然甘くならない。そもそもバッドエンドも多いのだが、仮にハッピーエンドだとしても、どこかうすら寒く(ほろ苦いというような甘っちょろい感傷ではなく、本当に人間のちっぽけさを感じるようなうすら寒さがある)、それがたいそうリアルである。リアルすぎて、泣くシーンじゃなくてもちょっと泣ける。
どれもこれも、30年以上も前に書かれた作品なのだが、全然古くないのがすごい。そりゃまあBGなんて言葉が出てきたり、結婚観がふた昔以上前な感じはあるかもしれないけれど、問題はそういうことではないのだろう。要は、恋している女の普遍性。
一人で勝手に妄想を膨らませすぎて色々なことが期待外れになったり、男はバカだアホだと言いながらそれを見抜けなかったり(あるいは、わかっていながら騙されることを望んだり)、女友達の人生と比べて虚勢を張ったり勝ち負けを決めたがったり、誰もがしていることなのに「こんなイケナイことしてるのは自分だけ」と思ったり……。冷静になって傍から見ればそれはひどく滑稽な姿なのだけれど、たぶん女って恋とか結婚に直面してしまうと、どうしようもなく「こんなもん」になってしまうんだよなーうんうんわかるー、というかんじ。
こういう、女の本性をさらっと書いてしまうところ(あと、食べ物の描写が本当においしそうなところ)が、私が田辺聖子さんを心から尊敬する理由なのです。